汚い、ずる賢い、醜い。
生態系の中でスカベンジャー(腐肉食)と呼ばれる動物達は、一般的なイメージではあまりよく思われていないのではないかと思います。
大型の肉食動物達が狩りをして得た獲物を横取りしたり、おこぼれを頂戴したり。
しかし、実はこのスカベンジャー達の御蔭で生態系は清潔に、そして強固に保たれていることはご存知でしょうか?
今回は、イメージこそ悪いけれども非常に重要な役割を担っている、自然界のリアルスカベンジャーズに焦点を当ててみたいと思います。
※スカベンジャーとは特定の生物の種類を指す言葉ではなく、腐肉食(スカベンジング)を行う生物は皆スカベンジャーであると言えます。
そういう意味では、人間もまたスカベンジャーだと言えますし、ライオンも頂点捕食者でもある反面、ハイエナの獲物を横取りしたりするのでスカベンジャーとしての一面も持ち合わせています。
今回ご紹介するのは、スカベンジングを主食として行っている代表的な動物達です。
スカベンジャーの重要な役割とは?
動物達をご紹介する前に、なぜスカベンジャー達が重要な役割を担っているかを簡単にご説明します。
生態系というのは、光合成を行い育っていく植物類が生産者、生産者を食しエネルギーとして生きていく消費者、そして消費者のフンや遺体などを地球へと還す為の分解者に大きく分けられます。
以前頂点捕食者を特集した記事を書きましたが、頂点捕食者とは消費者であり、かつ生態系内のトップに君臨する動物達です。
食物連鎖は腐食連鎖が主流
食物連鎖という言葉は聞いたことがあると思います。
小さく弱い植物や動物が、より大きな動物などに食べられ、死んで分解され土に還っていき、またその土から植物が生まれ育つという、生命のチェーンのことです。
イメージでは、弱肉強食でわかりやすい「食うか食われるか」の世界が強く連想されるかと思いますが、実は食物連鎖には2つ種類があり、1つはまさに弱肉強食な生食連鎖。
そしてもう1つが、フンや遺体が腐り、分解されていく腐食連鎖です。
そして、目立つ生食連鎖は実は生態系の中で言えば傍流であり、主流なのは腐食連鎖の方なのです。
それもそのはず、ほとんどの動物は敵に食べられたりせずに死んでしまう事の方が多いからです。
土の中の環境を整えるミミズもまた生態系内での貴重な分解者です。
ミミズ記事も良ければご覧ください。
腐食連鎖の重要な担い手、それがスカベンジャー
そんな主流の腐食連鎖ですが、例えば今回ご紹介するようなスカベンジャー達がいなかったら、世界は無数の死体で溢れてしまうことになります。
微生物や小さな虫などに頼るにも限界があり、病原菌や悪臭の溢れる不衛生な世界になってしまうのです。
それを防ぎ、環境を清潔に保つ重要な役割をしているのが中型、小型の動物スカベンジャー達。
彼らが腐食することで、大きな動物の遺体もより素早く処理、または分解され、更には食べたスカベンジャー達の体内でも様々な分解が行われフンとして排泄されることで、よりスムーズに土へと還っていくわけです。
汚いイメージとは裏腹に、実は世界を清潔に維持する為に大活躍していたのがスカベンジャー達なのです。
スカベンジャー(腐肉食)として有名な動物達
ハイエナ
獲物を横取りする狡猾でずる賢いスカベンジャーと言えば、真っ先に思い浮かぶのがハイエナ。
しかしスカベンジングばかりする種類はカッショクハイエナやシマハイエナの2種類のみ。
一方でアフリカなどに多く生息するブチハイエナはむしろ狩りが上手く、非常に優秀なハンター。
ブチハイエナはスカベンジングも行うものの、むしろライオンなどに狩った獲物を横取りされて悔しい思いをすることも多いのだとか。
因みにハイエナとして生物学上のハイエナ科に属するのは4種類のみ。
腐肉食を主とする2種類と、ハンターな1種類、そしてもう1種類に至っては主食はシロアリです。
意外!
ハゲワシ
動物の遺体をツンツンとついばむイメージのハゲワシ。
ハゲワシという名前は広く認知されていますが、特定の種類を指す言葉ではなく、タカ科の動物でスカベンジングを主とする種類の総称がハゲワシです。
ハゲワシは種類によってはとんでもない早食いをするのですが、なんと1キロの腐肉を1分で平らげてしまうのだとか。
動物達には驚くべき本能とも呼べる未だ解明されていない謎があるのですが、それは病気にかかっていて死んだような動物の遺体は基本的には避けるのだそうです。
一体どのように見分けているのか不思議ですね。
また、当然ながら腐肉も腐敗が進み過ぎればそれだけ他の悪い菌などが繁殖する可能性があるので、新鮮な腐肉の方が好まれるようです。
腐ってるけど新鮮なのを選り分ける……ちょっとややこしいですね。
更にハゲワシの凄いところは、胃酸が非常に強力なこと。
伊達に腐肉ばっか食ってねぇよ! と怒られそうですが、胃酸で悪い病原菌などを殺し、死亡率を下げているのです。
因みにハゲワシの胃酸がどれだけ強いかと言うと、鉄も溶けちゃうレベルみたいです。
強い。
ジャッカル
捕食者達の食べ散らかした残り物を食い漁ることの多いスカベンジャーがジャッカルです。
ジャッカルという名前こそよく聞くものの、姿形をハッキリ思い出せる方は少ないのではないかと思います。
上の画像のように、キツネのようでもあり犬のようでもあります。
生物学上の分類は、どの種類のジャッカルもイヌ科に属しています。
なるほど、そう知ってから見ると、犬ですね。
ハイエナと似た印象を持つ方もいると思うのですが、このジャッカルはハイエナと比較するとずっと小型で可愛いのです。
ジャッカルの中でも一番大きくなる種、キンイロジャッカルでも、大きくて15kgの体重。
ハイエナは大きいものだと60kgぐらいになるので、犬に例えればジャッカルが中型件ぐらい、ハイエナは超大型犬ぐらいです。
そんな小型なジャッカルですから、ハイエナのように果敢に狩りをすることもなかなかできず、おこぼれ頂戴のスカベンジングが主になってしまうのでしょう。
カラス
日本でも日常的に見かけるカラスもまた代表的なスカベンジャーです。
日本に生息するカラスは、主にハシブトガラスかハシボソガラスのどちらか。
都市部は、ハシブトガラスの方が多いようです。
ハシブトガラスの方がハシボソガラスよりも肉食で、基本的には何でも食べます。
さらに、ちょっと気持ち悪い話ですが共食いもします。
スカベンジャーでもあるカラスは、死んだ仲間の遺体までも食べてしまう為にあまりカラスの遺体というのを見かけないという事にも関係あるそうです。
ハシブトガラスは特に知能が高い事でも有名で、一度自分や仲間を殺した、または困らせたようなものを記憶するとも言いますし、人や動物をからかうような「遊び」もすると言います。
カラスって近くで見ると想像以上に大きくて、怖いですよね。
スカベンジャーとして動物の処理をしてくれているとは言え、都市部でのカラスに関しては果たして環境を清潔に保つのに寄与しているのかどうか疑問です。
しかしもしかしたら、カラスが全くいなくなってしまったら、そこら中に動物の遺体が転がっているような不衛生な世界になるのかも知れません。
保健所が処理してくれるのとは別で、実はスカベンジャー達が手助けしてくれている可能性は大いにありますから。
まとめ
スカベンジャー達がいなければこの世界は清潔に保たれず、循環も上手くなされない。
イメージだけで嫌っていましたが、地球というのは本当に複雑な仕組みで上手に回っているのですね。
この記事を書いていて強く思ったことがあります。
それは、人間が自分達であらゆるものを処理するようになってしまった現在、自然界に与えている影響というのは想像以上に大きいのだろうな、ということです。
スカベンジャーもへったくりもない、超強引かつ強大な介入をしてしまっていますから。
生態系が崩れ、行き場を失った動物達が絶滅していき、正しい自然のサイクルもなされなくなる。
そこに人間が新しいサイクルを作っていくのか、それとも代償として淘汰されていくのか……。
それがこれからの人々の考え方と行動に左右されるのであれば、僕らが担っている役割もまたスカベンジャー以上に大きくて重いものなのかも知れません。
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