【怪火】最低限知っておきたい日本の火にまつわる伝説・伝承【大火】

火の伝承

人の心を惹き付け、時に惑わし時に興奮させる太古からの記憶、それが

古くから神聖なものとされることが多く、それは暖を取る為の手段であったから、または唯一の灯りであったからなど様々な理由があります。

しかし現代では専ら火は恐怖の象徴。

暖炉や囲炉裏のある家であればその限りではないのでしょうが、基本的には火は料理をする時ぐらいにしか見ることがありません。

故に火のイメージはどうしても火災などに繋がりやすく、古い時代とは別の意味での”恐れ”を抱いてしまいます。

火が極身近にあり、火と共に生きていた時代。

今こそ、そんな我が国日本の古い時代の伝承や伝説を思い出し、改めて火との新しい付き合い方を考えてみましょう。

日本の火にまつわる伝承・伝説

怪火・鬼火

怪火イメージ

日本で最も多く伝えられているのが、怪火(かいか)・鬼火(おにび)の類です。

妖怪として扱われることもありますが、簡単に言ってしまえば原因不明の発火現象の事です。

また、怪火と鬼火は名前こそ違いますがイコールと考えて大丈夫です。

この怪火・鬼火は日本全国で伝承があり、特に有名なものだと狐火でしょうか。

鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「狐火」
鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「狐火」

怪火・鬼火と並んで狐火はその現象だけでもほぼ全国に目撃例がある謎の現象です。

提灯を灯しているかのようにポツポツと点いた灯りが突如現れ(数は1つから列になっている多数の物まで様々)、その原因を突き止めようと近づいても決してその灯りの元に辿り着くことは出来ず、フッと消えてしまうのです。

そのような理解不能な火を、人々は「狐火」と呼んだり怪火・鬼火と呼んでなんとか理解しようとしたわけです。

※妖怪現象誕生に関しての記事もよければご覧ください。

では、ざっとここで全国に跨る怪火・鬼火を書き出してみますので、あなたの住む地方の怪火・鬼火について覚えておくとご老人と盛り上がれるかも知れません。

日本の怪火・鬼火リスト

都道府県名前
北海道狐火(きつねび)
青森県もる火
秋田県裾野の火(呼称なし)
岩手県大入道の怪火
山形県古籠火(ころうび)
宮城県亡霊火(もうれいび)
新潟県陰火(いんか)
福島県龍燈(りゅうとう)
石川県海月の火の玉(くらげのひのたま)
富山県ふらり火
福井県斑狐(まだらぎつね)
茨城県飛び物 
群馬県光玉(ひかりだま)
埼玉県狐の嫁入り(きつねのよめいり)
千葉県唸り松
栃木県狐火(きつねび)
東京都火忌みさま(ひいみさま)
山梨県天狗火(てんぐび)
静岡県お近火(おちかび)
神奈川県青火(あおび)
長野県あやしき火
岐阜県風玉(かぜだま)
愛知県亡魂(ぼうこん)
京都府叢原火(そうげんび)
滋賀県油坊(あぶらぼう)
三重県いげぼ
大阪府姥ヶ火(うばがび)
和歌山県釣瓶(つるべ)
岡山県ホボラ火
奈良県蜘蛛火(くもび)
兵庫県油返し(あぶらがえし)
鳥取県チュウコ
島根県オショネ
広島県海幽霊
山口県根場の怪火
徳島県四ッ屋の怪火
愛媛県船幽霊
高知県遊火(あそびび)
香川県牛鬼(うしおに)
福岡県マヨイブネ
大分県とんとろ落ち
佐賀県天火(てんか)
長崎県うぐめん火
熊本県不知火(しらぬい)
宮崎県筬火(おさび)
鹿児島県ウマツ
沖縄県イニンビー

ざっと1つずつ載せましたが、他県に跨る怪火や怪火・鬼火が複数伝承されている都道府県も多数あります。参考までにご覧ください。

日本の火の神様

火の画像

次に日本における火の神様を見てみましょう。

火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)

日本神話の中でも比較的序盤にあたる、イザナギとイザナミが神を産む段においてイザナミが産み落とすのが火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)です。

しかし火之迦具土神はなんとも印象深い産まれ方をするのですがご存知でしょうか?

それは、産まれた時に自身が火の神であることから、イザナミが陰部をヤケドしてしまうのです。

さらにただのヤケドに済まず、イザナミはその陰部のヤケドが原因で死んでしまいます。

イザナミの死を悲しみ、激怒したイザナギはなんと火之迦具土神を切り殺してしまうのです。

――この神話上の逸話は、多くの教訓を与えてくれるとされています。

出産により陰部をヤケドし死んでしまうイザナミは、まさに出産の危険性を描いているとも言われていますし、火の神をイザナギが殺すということは人が火をコントロールできるようになったことであるとも言われます。

また、少し踏み込んだ話になってしまいますが、古い時代、火と出産とは相性が良くないとされていた時代があり(ケガレ思想など)、火の神を産むということが縁起の悪いことであるという描写でもあったのかも知れません。

例えば今でも言う言葉として「産後の肥立ち」があります。

これは子供を産んだ後の女性がしっかりと健康を回復していくことを表す言葉ですが、この肥立ち(ひだち)の「ひ」を「火」と掛けて、どうやら肥立ちが悪くなるから火を遠ざける、という解釈がなされていた地域があったようです。

ゲン担ぎというのは一見くだらないように見えて根深いものだったりするので扱いが非常に難しいです。

かまど神

台所や囲炉裏の火の神様がかまど神(かまどがみ)です。

日本の多くの地域で祀られている神様で、農耕、牧畜だけでなく家族をも守ってくれる神様として信仰されています。

かまど神は割と気性の荒い神様とされることも多いのですが、僕の推測ではキッチンは食材などの命と密接に関わりのある大切なものを扱う場所ですから、そこでの悪行は罰が当たるんだぞ、という戒めの為にかまど神が怒りっぽい神様とされたんじゃないかと思います。

怒れるばあちゃん、かあちゃんは神をも凌駕するのです。

食べ物は大切に。

日本の火伏の神社

炎と水の拳画像

日本における火伏(ひぶせ。防火ほどの意味)のご利益があるとされる神社は有名どころで二社あります。

1つは、先に書いたイザナミから産まれた火之迦具土神を祀る秋葉神社

この神社は火事の頻発していた江戸に、火伏の願いとともに建立された神社で、今の秋葉原の名前の由来にもなっている神社です。

もう1つが、火之迦具土神を産んだ側のイザナミを祀る愛宕神社

火之迦具土神を産むことで死んでしまったイザナミもまた、火を御すことのできる神として祀られているのがなんとも不思議です。

謎の多い日本で起きた最悪の火事「明暦の大火」

火の玉イメージ

日本の火事の中で最も規模が大きく、死者数もとんでないことになってしまった最悪の火事、それが明暦の大火です。

江戸時代には木造建築物がほとんどであり、さらに地形的に強い風が吹きやすいという特徴もあります。

さらに当時の灯りは全て火を使うものでしたので、ふとしたことから火災に繋がりやすかったのです。

ただ、全てが事故めいた失火だったわけではなく、放火も多く行われていたことも記録されています。

恨みがあって放火するというよりも、放火して人々が混乱している隙に盗みを働く、いわゆる火事場泥棒をする輩が多かったとも言われています。

江戸時代に起きた大きな火災は明和の大火、文化の大火、明暦の大火と三つあり、これらを合わせて江戸三大大火などと呼ばれるのですが、この明暦の大火は群を抜いて悲惨でした。

江戸の大半が焼失し、死者は多い記述だと10万人にも上ったとされています。

以前明暦の大火に関する本を読んだのですが、ちょっと簡単に書けないレベルの阿鼻叫喚、悲惨極まるものでした。逃げ遅れる花魁、市民、繰り返される略奪、川に飛び込むも人が群がりすぎて溺れ死んだり圧死したり。なんだかそういう恐ろしい内容でした。

それはともかく。

この明暦の大火最大の謎は、複数箇所から連続して出火したことです。

本郷・小石川・麹町と、消火できそうだと思いきや別の場所で出火し、やばい間に合わないでも今度こそ消火できるぞ、と思いきやまた別の場所で出火、と繰り返したのです。

これによりいかに江戸の火消しが頑張ったところでどうにもならず、最終的に超惨事となってしまったのです。

明暦の大火・田代幸春画『江戸火事図巻』

因みにですが、江戸時代の主な消化方法というのは現代のような水を掛ける消火ではなく、建物を壊して延焼を防ぐ「破壊消防」が主流でした。

連続多発する出火には到底対処できなかったのも頷けます。

そして連続して起きた出火が不自然であることから、幕府が計画的に人口を減らす為に秘密裏に放火させた説、さらには本妙寺で焼いた振袖からの失火が原因とされる、いわゆる「振袖火事」と明暦の大火が呼ばれることになった逸話などが言われるようになりました。

※ざっくり振袖火事の逸話をご紹介

麻布の質屋の娘が、本妙寺に墓参りに行った帰りに寺の小姓に一目ぼれ。

恋い焦がれるも娘は病にかかり死んでしまう。

娘の両親は生前娘が大切に着ていた振袖を棺に掛けてあげた。

供養の物は寺の寺男がもらうことになっていたので、とある寺男が振袖を貰う。

その男は罰当たりにもその振袖を転売。

振袖を買った娘が最初の娘と同じように病死。

不思議なことにまたしても供養の物としてその振袖は本妙寺へ。

寺男、またも転売。

また違う娘が買い、病死。

供養で三度本妙寺へ。

流石にこれはヤバイぞ、と寺でその振袖を焼き清めることに。

焼こうとしたところ、突如強風が吹き、火の付いた振袖は人の姿のように風を孕んで江戸中に燃え移る炎の原因となった。

というお話。

真相はわかりませんが、自然に出た火でないことは、その不自然な出火から見ても明らかでしょう。

そして、今も昔も転売と炎上には気をつけなければいけないことがよくわかりました。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

この記事を書き始める前は、もっと様々な伝説が収集できるかと思ったのですが、日本の火にまつわる伝承・伝説はそのほとんどが怪火・鬼火になってしまうということがわかりました。

妖怪伝承というのは思った以上に日本中に染み込んで語り継がれているのですね。

ぜひ一度、祖父や祖母にでも不思議な伝承・伝説について聞いてみて下さい。

想像以上に面白くて興味深い地域のお話が聞けるかも知れません。

コメント

  1. […] たり飛んだりしている謎の物体には使われない。  ※大昔から山で発光体が飛ぶ話は沢山ある(人魂、鬼火、キツネ火の話など)。  ※メコン川の火の玉は今は観光用のお祭りになって […]

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